僕は古本を知らない

古本や本全般についてのブログです

              2017年3月19日(日)   

            『鬼子母神通り みちくさ』市レポート

 

 なんてこった。3月のみちくさ市のレポートを書かずじまいで軽く2か月が経過してしまった。多忙が原因だったのだが、それでもせめて終了から1か月以内に書こうと思っていたのに、不忍一箱古本市の準備がぎりぎりになってしまい、書く時間がなかった。5月になってようやく多忙からある程度解放されたので、そろそろ書くことにしたい。

 

 と思ったのはいいものの、1か月以上も放置していたこのブログ、誰も覚えていないだろう。これはいけない。そもそも、ブログをはじめた動機の1つとして、一箱古本市初心者の人でも楽しめる一箱古本市レポートを書くということがある。開催から1か月以上経ってしまった一箱古本市のレポートを書いても仕方ない気がするので、ブログをはじめたもう1つの理由である、古本仲間たちに読んでもらってみんなで楽しみたい、という方針で今回は書こうと思う。

 

 というわけで、今回は固有名詞連発の思いっきり楽屋話、内輪ネタの回になります。

 

 去年の5月に『ブクブク交換@ますく堂の仲間たち』という屋号で、池袋の『古書ますく堂』で定期的に開かれていた(現在は場所を移動)ブクブク交換の常連たちでグループ出店して以来、久しぶりのみちくさ市となる。単独店主で出店したのは去年の3月が最後だから、ちょうど1年ぶりになる。

 

 他の一箱古本市とは違い、みちくさ市には地元の友人とグループで出店しているので、いつもより荷物を多めにして10時過ぎぐらいに雑司が谷鬼子母神通りに到着。早速受付に向かう。

 

 商店街の通り道におなじみの顔を見つけ、受付で久しぶりの顔をいくつも確認して、以前と同じように手続き。見なれた光景、ふだんどおりのみちくさ市。「帰ってきた一箱古本市店主」として、僕はみちくさ市に帰って来たのだ。なんだか帰還兵になったような気分だ。水木しげるも、南方戦線から鳥取に帰って来た時、今の僕の何百倍もの感慨が生じたのだろう。

 

 受付を済ませ、出店場所である立川歯科前に向かう。歯科前入り口が定位置出店場所となっている朝霞書林さんが準備をしていたので、久しぶりのあいさつを交わす。

 

 今回は復帰・屋号変更第1弾ということで、いつもの『水木しげる祭り』を行なうことにした。第4回目の『水木しげる祭り』だ。さっそく段ボールやかばんに入っている本を相棒と一緒に並べていく。

 

 『水木しげる祭り』では、毎回水木しげるに関係している本や著者のものを並べるのだが、怪奇系店主は去年で引退したので、今回は怪奇系にこだわらず、広範囲に(強引に)水木しげるとの関係を見いだし、選書した。

 

 10時40分ごろには『第4回水木しげる祭り』の準備が終わる。今回はいつもよりディスプレイにこだわり、ねずみ男の金色貯金箱を持っていった。他に、友人が発案した、積み込みカートにゲゲゲの鬼太郎トートバッグをかけるという演出をしてみた。水木しげる作品の妖怪バッジや妖怪フィギュアも少し持っていったので、見ばえはいつもの『水木しげる祭り』よりもよかったはず。

 

 そしてここから、かつてなかったような怒涛の展開となる。11時前の準備が完全に整う前段階から、とにかく本が売れまくるのだ。それも複数冊購入するお客さんが多い。バッジやフィギュアも含めて売れる売れる。

 

 スリップ関係の細かな作業をやりながら販売していたのだが、とにかくひっきりなしにお客さんが訪れ、本を購入されるので、作業が追いつかない。販売はほぼ相棒に任せる状態になってしまった。

 

 スリップは残っているのだが、とにかく忙しかったので、どんなお客さんが何冊購入したのかほとんど覚えていない(更新が2か月遅れになってしまったというのもあるが)。ただ、はっきり覚えている場面もあり、水木しげるマンガを4冊同時購入したお客さんがいたのがすばらしかった。値引きするといったところ購入していただき、お友達も別の本を値引きで購入した。

 

 12時までの段階で本だけで20冊以上という、自分としては驚異的な売り上げペースになる。不忍一箱を含め、過去最高のペースだ。

 

 が、しかし、午後からは売り上げペースが突然落ちる。1時間に2,3冊しか売れない状態が続く。午前中が売れすぎたということか。また売れはじめるかと思いきや、そのペースがずっと続くことになる。

 

  暇になったので、他の店主さんの箱を見てみることにした。立川歯科でいえば、新・たま屋から見て右隣が書肆ヘルニアさん。個人としては最後の出店となった去年の不忍一箱に続き、同じ場所での出店となる。なにかと縁のある店主さんといえる。箱を見ると、種々雑多な本の中にうまみのある粒本をちりばめた箱になっている。自分が読んだ本をもってきているとのこと。書肆ヘルニアという屋号はインパクト大だが、箱の中身はあくまで正統派の一箱古本市店主なのだ。本人はかなり疲れ気味らしく、体力的にはきついといっていたが。

  

左隣は先ほどあいさつした朝霞書林さん。一箱古本市の大ベテランである。みちくさ市では朝霞さんとも隣合うことが多い。 僕は一箱古本市マニアなので(といってもキャリアは大したことないが)、みちくさ市HPの出店者紹介ページの印刷を2014年9月からとってある(ちなみにたまやが初出店したのは同年5月)。

  

その記録によると、朝霞書林さんとは同じ出店場所になったのが3回(たまやがグループで出店した時も含む)、出店場所が隣り合ったのが4回となっている。場所は立川歯科か青果ツカモトヤ前のどちらかなのだが、たまやのみちくさ市出店回数8回中7回も近くになっているのだ。しかも他の古本市では両者出店していても遭遇しないところが不思議だ。今年のみちくさ市では何度ご一緒するのだろうか。朝霞さんからは『総理大臣になりたい』(坪内祐三講談社)を購入。

  

店を訪れた知り合いのことも書いておこう。本が売れまくっている時間帯だったか、kochi451さんが店に寄ってくれた。今からふり返れば、今年の4月に地元に帰ることになったkochi451さんとは、このみちくさ市が東京で会う最後の機会になってしまった。次にお会いできる可能性があるとしたら、僕が西日本に旅行する時だろうか。いつか関西の方の一箱古本市を見にいきたい気持ちもある。

  

『わめぞ』メンバーの一箱店主眠りこんだ冬ことハニカミわめぞ賞ズ末弟(?)ことひとつき10冊ファミリーこと書店員のⅯくんが、同じく『わめぞ』メンバーのMさんデザインの「分け目」オレンジ色Tシャツを着て店を訪れる。おせっかいな提案をする。

 

 朝霞書林さんの隣の青果ツカモトヤ前で出店していたドジブックスさんとは、2日前の17日に神奈川公会堂で開かれたドジブックスさん主催の本イベント『第27回ひとつき10冊』に僕がゲスト出演した時に会っていた。

 

 イベント終了後、レギュラーメンバーであるイラストレーター・マンガ家の丸岡九蔵さんが毎回ゲストのために作成してくれる、「笑っていいとも!」テレフォンショッキング風(というかそっくり)のネームプレートをいただいたので、今回はそれを屋号の札として持ってきたのだ。ドジブックスさんも同じものを使用しているので、来店したお客さんで、気づいておもしろがってくれた人もいるだろう。

 

 デザインもそうだが、このネームプレートはすばらしい。サイズがちょうどいい大きさで、とにかく運びやすいのだ。今まで屋号の表示の仕方に迷っていたが、このネームプレートが解決してくれた。こんないいものがもらえるので、一箱古本市店主は『ひとつき10冊』にゲスト出演すべし! といいたい。

 

 そんなネームプレートの話もしつつ、ドジブックスさんとも色々お話しする。ヘルニアさんもゲスト出演経験があるので、複数で話すことも。今回は朝霞さんも含め、新・たま屋の2人と隣接した3人で話す機会が多かったような気がする。

 

 14時過ぎごろ、いつものように店番を友人に任せ、各店を本格的に回りはじめる。

 

 渡辺事務所横ではミウ・ブックスさんにあいさつ。『池袋モンパルナス』(宇佐美 承/集英社文庫)を400円(!)で購入。安さに驚く。一箱古本市は店主もやめられないが、こういうことがあるから客もやめられない。ミウ・ブックスさんとは去年の不忍一箱で出店場所に向かうときに偶然会っている。それが予兆だとすれば、今年の不忍一箱は同じ場所で出店するのではないかという予感がしたが、その予兆は思いっきりはずれることになる。渡辺事務所の建物では、みちくさ市に合わせて毎回本を売っているが、今回コンビニ版の分厚い(1冊が3~4cm)『カムイ外伝』1冊50円を7冊(!)も購入する。あまりの量に、一旦本を置きにいく。

 

 あしあと動物病院では猫店主の古書錆猫さんが出店。猫店主ならぬ猫好き店主の僕としては話をしたかったところだが、タイミングがなく通り過ぎる。同じくえほんやハコのなかさんが久しぶりの出店をしていたが、こちらも話しかけるタイミングを逃す。最近各一箱古本市で名前を見かける晴山屋さんとは何も話さなかったが、4月の不忍一箱で同じ出店場所になるとはこのときは知るよしもなかった。

 

 池田ビル前広場で不在のレインボーブックスさんの本を見ていたら、女性が僕を店主と間違えて会計を頼んできたので、店主のふりをして会計を済ませ、店主のふりをして何ごとかいう。このまま偽レインボーとして居座るのもおもしろいかと思ったが、時間がないので次の店へ。去年のみちくさ市で少し話をしたあんとれボックスさんとぽこぺんどーさんに会う。あんとれボックスさんがぽこぺんどーさんの箱から出して見ていたマンガが僕のおすすめだったので、おせっかいでおすすめしてしまう。そのすぐ近くで本を並べていたコローのアトリエさんから、いよいよ不忍一箱に初出店するとの話をきく。新人と経験者の出店場所が同じになりやすい傾向からいって、ひょっとしたら場所が一緒になるかも、と思うが、そうはならなかった。他に、カミーユ・コローの絵がプリントされているコローのアトリエさんの本の値札の四隅をセロハンテープでとめると、しおりになるという発見について話す。『コローのアトリエ』で本を購入した方はぜひお試しあれ。

 

 さむしんぐでは新・たま屋の名づけ親であるⅯ&Ⅿさんと、久しぶりの停車場文庫さんにあいさつする。屋号を変えることは去年から考えていて、名前の表記だけを変えようと思っていたのだが、決定的なアイデアが思い浮かばなかった。去年11月のみちくさ市で、池田ビル前広場に出店していたヘルニアさんと屋号変更について話している時、店を回っていたⅯ&Ⅿさんにシン・たまやになるの? といわれ、それがそのまま屋号になったわけだ。

 

 屋号変更といえば、同じく今回のみちくさ市で屋号を変更したコトナ書房さんと旧「魚新」シャッター前でお互いの屋号の由来などを話す。『徹底調査 子供の貧困が日本を滅ぼす』(日本財団 子どもの貧困対策チーム/文春新書)を購入。コトナ書房さんは福祉系・時事系の本も出していることがあるので、福祉系の人間としては助かる。

 

 踏切を渡り、まるやま青果前出店のドーナッツブックスさんにあいさつする。客として訪れた前回のみちくさ市では、いつものY夫妻以外のメンバー(子ども店長含む)がいたのだが、今回はいない模様。

 

 そんな風にして各場所を回ったあとで自分の出店場所に戻るも、少ししか売れてなかったと知る。

 

 終了時間が近づいてから、ドジブックスさんに『偶然完全 勝新太郎伝』(田崎健太/講談社) を購入してもらう。僕の方は、ドジさんの隣に出店していた古本屋ツアー・イン・ジャパンさんが本の購入者に配るフリーペーパーを持ってきていたのをうっかり忘れていて、あわてて買いに行く。ちょうど雨の実一族が訪れ、話しているところだった。リーダーにあいさつし、『銃器店へ』(中井英夫/角川文庫)を購入。フリぺもゲットする。

  

こうして別ユニット出店なら去年の5月以来、単独出店なら同じく3月以来となるみちくさ市が終了した。『第4回水木しげる祭り』の総売り上げは、妖怪フィギュア1つ、水木キャラバッジが2つ、本が31冊。肝心の水木しげる本は6冊・・・・・・。『水木しげる祭り』なのにこれはまずい。けっこうたくさん持ってきたのに、6冊では少なすぎる。しかし今回はまだいい方で、次の本まっち柏ではもっと散々な結果となるのを、この時の僕はまだ知る由もなかったのである・・・・・・。

  

持っていく本の量が多いため、自分1人出店の時はいつも片づけが大変なのだが、みちくさ市では2人出店なので、水木しげる関係で持ってきた細かなグッズの片づけも楽々と進み、大いに助かる。ただ、1冊3、4cmのカムイ外伝はやはり場所をとる。

 

 終了後は受付で友人と別れ、ドジブックスさん、書肆ヘルニアさんとともに待機する。終了後にカフェなどで話すのが定番となっているのだ。疲れ気味のヘルニアさんもこの会には参加するとのこと。

 

 ドーナッツブックスさんを呼びに行くも、今回はお茶には行かず、帰宅するとのこと。やはり疲れ気味らしい。季節の変わり目や花粉症の影響からか、この日は疲れ気味の人が多く、先週の神楽坂一箱に2日連続出店、この日の前日には『本との土曜日』に出店していたレインボーブックスさんも疲れ気味だった。そんなに出てたら疲れて当然という気もするが・・・。『一箱古本市の鉄人』は大変だ。

 

 道を戻る途中、雨の実一族に再び会い、少し立ち話。今年は不忍一箱古本市に出店するという。てっきりグループで出店するのかと思いきや、2か所に分かれて出店するときき、驚愕する。なんというやる気! 新人と経験者の組み合わせ率の高さから、あるいはどちらかと同じ出店場所になるか、と思うも、これまたそうはならず。みちくさ市(わめぞ)と雨の実一族には不忍一箱ですてきな縁が待っているのだが、このとき話した時は誰もそれを知らなかったのである。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     

  

受付に戻り、ドジさんヘルニアさんと共に池袋方面に進んでカフェを探す。いつもの店がいつものように満員なので、遠くの店まで行くことに。池袋は東京3大繁華街なのに、なぜこうも広々としたカフェ店が少ないのか。

 

 ドジさんの案内で駅からかなり離れた店に行くも、なんと、こちらも満員。結果、すぐ手前にあったフレッシュネスバーガーでお茶することに。

 

 席に着き、今日のみちくさ市の結果やひとつき10冊などの話をする。そのうちサブカル方面の話に。小沢健二のこと、『この世界の片隅に』、こうの史代の話など。去年のみちくさ市でヘルニアさんに『この世界の片隅に』の話をききに行き、具体的なシーンの説明は観てないとわからないと気づいたので、多忙がひと段落した3月はじめにようやく観たのだった。噂通りすばらしい作品で、ようやくヘルニアさんの話をきくことができた。映画と原作の違いとかがわかってよかった。原作も非常に読みたくなる。

 

 ほとんど寝ていないというドジさんが椅子に座りながら居眠りに入る。僕とヘルニアさんとでトーク。ヘルニアさんとは同世代だが、その話になにかと気づかされることが多い。今回はっとさせられたのは、年をとったら昔のようなエネルギーをサブカル批判などにぶつける気にならないという話。年をとることで昔のような血気は弱まり、静かな心境にいたる、というような話だった。同世代なので、自分もまた、そんな年齢になったのだなあ、とある種の感慨がわく。古代ギリシャイオニア哲学というものがあるが、僕はヘルニア哲学に影響を受けやすいようだ。

 

 去年プロの古本屋になった、元一箱古本市常連店主雲雀洞さんの話もする。ヘルニアさんは雲雀洞さんの大学時代の同級生なのだ。みちくさ市に雲雀さんが出店していた頃のことを思い出す。僕が一箱店主デビューをする前にみちくさ市に遊びに行った時から、その独特の品ぞろえが強く印象に残っていて、「雲雀洞といえばみちくさ市」、というイメージすらある。青果ツカモトヤ前で一緒に出店したこともあったっけ。記録によると、雲雀洞さんは去年の3月が現時点で最後のみちくさ市出店となっている。そうか、みちくさ市で雲雀さんを見かけなくなってもう1年になるのか。不思議な感慨がわいてくる。

 

この感慨を短歌風に表現すると、

 

 雑司が谷 古本の羽 いっぱいに 広げて売るよ いつかの雲雀    

 

といったところか。

 

 ヘルニアさんの昔話をきいているうち、僕もみちくさ市以外の一箱古本市や雲雀洞さんがレギュラーだった頃の旧『ひとつき10冊』など、昔を懐かしく思い出す。たかが9か月ほど店主活動を休んだだけなのに、浦島太郎のように外界では長い時間が過ぎ去ってしまったような気さえする、帰ってきた一箱古本市店主、新・たま屋だ。

 

ふと周りを見渡すと、ドジさんは相変わらず眠り、隣の席では、街に出た帰りだろうか、母親と小さな女の子が飲み物を飲んでいる。その他の席にも人がちらほらと座り、思い思いの話をしている。昔を懐かしんでいるうちに、不思議な感覚が全身をおおいはじめてきたようだ。店内が静かというわけでもないのに、穏やかでやわらかく引きのばされたような時間が流れていることに気づく。子ども時代の長い長い1日の午後のような懐かしさの中で交わされる、ここにはいない人の話。本来いるはずの人、いてもいいはずの人がここにいないという事実。それがこのような懐旧をかきたてるのだろうか。

 

 一箱古本市に参加するようになってまだ3年しか経ていないのに、なぜだかもっとずっと前から一箱店主をやっている2人が、昔の一箱仲間の思い出について懐かしく話をしているような、そんな奇妙な感覚に包まれる。おいおい、僕なんてまだまだ若手の店主だぜ? 

 

 まだ酒は飲んでいないのに、なぜか酔っぱらったときの感覚に包まれてしまったみたいだ。一箱古本市には、人の時間感覚にねじれを加える力があるのだろうか。あるいは、一箱店主をすることで体験する濃密な時が時間の感覚を引き伸ばし、3年にも満たない期間を実際以上に長く感じさせているのか。たった3年のはずなのに、一箱古本市に参加するようになって以来、本当に色々なことがあったような気がする。

 

ナチュラルドランク(?)を醒ますため、トイレに入る。戻ってからはそんなに長く滞在せず、目を覚ましたドジさんと3人で店を出たように記憶しているが、どうだっただろうか。ナチュラルに酔っていたので、あまり覚えていない。

 

 店を出て、打ち上げに参加する僕とドジさん、疲れているので打ち上げはパスするというヘルニアさんと共に池袋駅を目指す。打ち上げ会場は池袋北方面の中華料理屋だ。この時点で持病が悪化してきていたので、僕はちょっと迷っていたのだが、『わめぞ』のⅯくんに話したいことがあったので、顔を出すことにした。

 

 なぜか細かいルートを知っているドジさんの案内で駅に向かって歩く間、ナチュラルハイもあってか、池袋の街に吸収されそうな気持ちになる。ビルの中に入り下りのエスカレーターで地下に降り、再び上って外に出るルートを通った時など、まるで池袋のへその中を歩いているようだった。地上に出てから頭上に広がる空を眺めて、陶然とした気持ちになる。僕はやっぱりこの街が好きだ。

 

 というのも、僕は去年の夏から、急に池袋好き人間になってしまったのだ。今までは古書ますく堂のある街、程度の認識しかなかったのだが、夏に水木しげるイベントを見にサンシャインシティに行って、そのあとますく堂の千年画廊で開かれた最後のブクブク交換(『ますく堂ブクブク交換』自体は場所を変えて継続中)に参加して以来、この都市のもつごった煮的な魅力にようやく目覚めたのだ。その日の出来事は、またいつの日かこのブログで書くことになるだろう。

 

 駅の東側に到着し、書肆ヘルニアさんと別れる。ドジさんと一緒に北の方に歩き始める。が、しかし、このあたりから持病が相当痛みだし、ん、これはヤバイぞ、という気持ちになる。

 

 打ち上げ会場に到着。したのはいいものの、持病がここ最近で一番ひどい状態になり、打ち上げどころではなく、ブルース・リーの出す怪鳥音のような叫びを心で発する。しかもよりによって出てきた料理が辛く、酒との相乗効果で持病にMAXヤバイ組み合わせになる。まあ、それを飲み食いする自分が悪いのだが・・・。

 

 それでもMくんにいいたいことを伝えなければ、という気持ちが最初はあったが、M君に話すタイミングもつかめず、だんだんそれどころじゃなくなり、後方から転げ落ちるように椅子から離れ、『わめぞ』のM・Rさんに打ち上げ代を渡し、帰る理由を告げてほうほうの体で会場を出る。なぜこんなに早く帰るのかと問う人に対し、Mさんが病名を告げる。その流れや間がかなり笑えるものだったので、店を出る僕の後方で爆笑が起こる。偶然とはいえ、みちくさ市の打ち上げに参加するようになって、僕がはじめてとった笑いだったのではないか。金銭的な事情で、今後はみちくさ市の打ち上げにはあまり参加できそうにないので、これが最後のよき(?)思い出となる。

 

 帰り道は、先ほどのロマンチックで陶然とした気持ちは池袋の果てまで吹っ飛び、ひたすら現実の痛みと戦いながら帰宅することになった、帰ってきた一箱古本市店主、新・たま屋のみちくさ市復帰第1弾であった。